無所属を生きるということ

大学卒業前に魚村晋太郎さんとお酒をご一緒したことがある。憧れの人に会えた興奮と酔いとで、私は饒舌にも「何かの賞を獲るまで結社や同人誌には入りたくない」と話した。氏は優しく、だがきっぱりと「その考え方はとても格好悪いよ」と…

俵万智『短歌のレシピ』評

本書は季刊『考える人』(新潮社)に連載されていた「考える短歌」をまとめたもので、『考える短歌―作る手ほどき、読む技術』(二〇〇四年・新潮社)の続編にあたる。 前書は秀歌の鑑賞と投稿歌の添削がセットになっていたが、前書きに…

寺山修司とわたし

間引かれしゆゑに一生欠席する学校地獄のおとうとの椅子  『田園に死す』 俳句、短歌、演劇と駆け抜けた寺山修司を〈永遠の転校生〉のように感じてきた。「短歌ってのは回帰的な自己肯定性が鼻についてくる」という言葉には、短歌から…

岡本かの子の構成意識

岡本かの子の第一歌集『かろきねたみ』が大正元(一九一二)年末に上梓されてから、はや一世紀が過ぎた。 第二次世界大戦が始まった昭和十四(一九三九)年に四十九歳の若さで他界したかの子には、歌以外にも仏教研究や小説においての膨…

ドイツの珈琲

うるほへる瞳のごとき珈琲で事足る日々をただひとりゐる 『鈴を産むひばり』 七年にも及ぶ大学生生活の長い空腹を、珈琲でごまかしながら過ごした。煎った豆をお菓子として齧ったりもしたが、珈琲それ自体を食べるように飲んでいた。自…