聖域をめぐって ――大井学『サンクチュアリ』歌集評 既に優れた評論書『浜田到――歌と詩の生涯』をもつ歌人の、十九年をまとめた翹望の第一歌集。 オデュッセウスの帰還のように雑踏を蹴散らしすすむきみの胸まで 一本の樹から仏を彫りいだす煩悩よわが煩悩が観る 東西の古典・哲学思想… もっと見る
季節の秀歌・秋の歌 ――柚木圭也の一首 〈生コン〉といふ字が見えてそれよりは空緊まりゆく冬のまぢかに 柚木圭也『心音(ノイズ)』 「生コン」という言葉がコンクリート工場の建物やミキサー車に書かれているのを確かに見たことがある。「生コンクリート」を省略した言葉だ… もっと見る
朝ちょっとだけ泣く ――二十代歌人と〈ヒューモア〉 便座だけだ十分前に締め切りを過ぎた私にあたたかいのは 山田成海『岡大短歌 二号』 パンパカパンは何が開いているんだろう、パカのときに。 朝ちょっとだけ泣く 橋爪志保『京大短歌 22号』 廃線を歩いていった記憶あり あれは… もっと見る
『讃岐典侍日記』 ――ジャパニーズポエム 笛のねのおされし壁の跡みれば過ぎにしことは夢とおぼゆる 讃岐典侍(さぬきのすけ)(藤原長子(ふじわらのながこ))『讃岐典侍日記』 平安時代に綴られた『讃岐典侍日記』を読んだのは、高校生の頃だった。同時代の女性による日記文… もっと見る
6月の、それも28日 ――『終戦50年沖縄合同歌集 黄金森』 冒頭緒言の後にいくつかの写真が収められている。県短歌大会や出版記念会の緊張した面持ちが並ぶ集合写真の中には、懇親会の様子であろうカチャーシーを踊る姿も見受けられるが、このような構成自体は合同歌集の定番と言える。ただひとつ… もっと見る
瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end.』歌集評 二〇一二年に私家版として出版された『そのなかに心臓をつくって住みなさい』に継ぐ第二歌集。書肆侃侃房の現代歌人シリーズ第十巻にあたる。 前歌集では、他の歌人の連作を下敷きにした歌や、散文に近い形式の作品など、短歌が暗黙的に… もっと見る