港の人の創立20周年

第一歌集『鈴を産むひばり』の出版でお世話になった鎌倉の出版社「港の人」が創立20周年を迎えられたそうです。

私が歌集の出版相談のために港の人をはじめて訪問したのが2010年4月(日記:出版社「港の人」を訪問したこと)ですから、代表の上野勇治さん(当時は、里舘姓でした)にお会いしてから、もう7年も経つことになります。

活版印刷ができる関東圏の出版社を条件にインターネットで検索して見つけたのがきっかけですが、その極めてシンプルな理由を話しても、短歌関係の幾人かにはすんなりと理解していただけなかったことを思い出します。新人賞を受賞した際の出版社や歌集専門の出版社を選ばなかったのは何故なのか、という疑問への十分な答えではなかったのかもしれません。私自身も大きな物事ほど、えいや!で決める傾向にあるようです。

ただ、人と違う行為には必ずそれ相応の理由があるはずだ、と感じるとき、ある常識を常識たらしめる力が何によってもたらされるのかは振り返ってみていいのかもしれません。

活版印刷、カバー・帯・栞なし、一行20文字で組む、という3つをお願いしたことを思い出します。カバーなしの歌集を何冊か例としてお見せしたうえで、カバーがないと本が擦れたり汚れたりしたときに目立ってしまうのが気になっていますので、何とかならないでしょうか、とも相談しました。今思えば無茶なお願いです。また、一行20文字組みの歌集の例として塚本邦雄の『水葬物語』(復刻版/書肆稲妻屋)をお渡ししたことも。私が持っていった歌集を、上野さんが丁寧な手つきでめくりながら、いろいろな角度で見ておられたことが、昨日のことのようです。港の人を後にして、大仏を観てから由比ヶ浜を歩いたことも懐かしいです。

上野さんに出版社を始められた頃のお話をお聞きしたことがあります。私自身が退職して東京を離れることを考えていた頃でした。独立してやっていくのは大変でしたか、という私の興味本位の質問に、上野さんは「そりゃあ大変でしたよ」と満面の笑みを返されました。以来、多少しんどいことがあっても、そのときの笑顔に背中を押されてきたように思います。

雑誌や新聞などで、港の人や上野勇治さんが取り上げられるのを何度か目にしたことがあります。書籍としては、『エディターシップ Vol.3』(トランスビュー:2014)や『“ひとり出版社”という働きかた』(西山雅子 編/河出書房新社:2015)あたりが手にしやすいかもしれません。気になる方は探してみて下さい。

港の人の創立20周年に、こころからお慶び申し上げます。