歌集を出す参考にと、『処女歌集の風景 ―戦後派歌人の総展望』を買ってみました。1987年にながらみ書房より出ており、編者は三枝昂之・田島邦彦です。
ながらみ書房による第一歌集を中心としたアンソロジーは、『第一歌集の世界 ―青春歌のかがやき』(1989年)、『私の第一歌集(上・下)』(1992年)、『現代の第一歌集 ―次代の群像』(1993年)、『現代短歌の新しい風』(1995年)と刊行されています。それ以降については分かりません。
『処女歌集の風景』に収められているのは51歌人の51歌集。刊行年では1972年から1986年となっています。対象とした歌集について、田島邦彦は次のように述べています。「ただ一つ収載の基準として、あくまで単独の歌集に限定したので、過去または現在刊行中の出版社の各叢書・集成・シリーズに加わっているなかで、戦後生まれの処女歌集に当て嵌るものもいくつかあったが、やむなく外したことをここに断っておかねばならない。」
歌集の著者による自選歌だけではなく、著者へのアンケートが収められており、それがとても面白いです。「第一歌集の出し方についてのアドバイス。これからの人に対して参考になることを自信の経験から述べて下さい。」というアンケートへの回答から、いくつかを引いておきたいと思います。
- 河野裕子
歌集一冊を作るには、(特に第一歌集の場合)一首の歌を作るのと同じで、”気合”がいる。自分の技倆とか年齢、周囲への配慮などを考えて、ぐずぐずしていると気合抜けになってしまう。エイッという思いきり、気合が大切。
- 永井陽子
内容のみならず、出版方法にも自分の主張をもってほしいと思う。安易に歌壇的慣例や商業ベースにのらないでほしい。
- 三枝浩樹
よい歌を集めて一本にする意図と、主張のはっきりした歌集を作ろうとする意図の両立を図るといいですね。最近は前者が多いのですが、歌集を出すのなら是非とも両立を。
- 花山多佳子
一区切つける、というよりも、継続してうたう意欲が感じられている中途で出した方がいいように思う。あまり長期間にわたる作品でなく、数も多くない方が出しやすいし、読みやすい。
- 小池光
あとがきが大事。あとがきで一発カマすつもりで書き、作品で(一定の)裏打ちをすること。それから本のタイトル、造本。「大家の傘」につつまれた印象を与えず、同時に、孤立無援を気取る印象を与えぬ事。どちらも下品だから。
- 吉岡生夫
思い立ったら、とにかく出すことでしょう。
- 鵜飼康東
第一歌集については出来るだけ自費出版を避けて、第三者である出版社の組織のふるいにかけてから出版することが望ましい。近頃歌集の自費出版が多すぎると思う。
- 道浦母都子
この思いを放ったら死んでもいいという覚悟で出すこと。
- 江畑實
自らの著作である歌集に、他者の手になる序文、跋文の類は本質的に不要であろう。私も躊躇した末、結局は誰にも執筆を依頼しなかった。それは決して間違いではなかったと思っている。
- 栗木京子
いわゆる若書きの作品に対しては、気恥ずかしさが先立って削除してしまいがちだが、作者の歌の原初の姿を知る上で貴重な糧となる。是非処女歌集に収載することを勧める。
- 大塚寅彦
考えた末の「正攻法」か、体あたりの「型やぶり」を。
- 仙波龍英
出すのは止めよ。