家族と健康、そして後世のために ―― 特集:わたしの誌面批評

お願い申し上げたいことを、八項目にまとめました。

〈1〉原稿のご依頼時期につきまして

原稿のご依頼は、遅くとも二ヶ月前には頂きたいです。都合で遠方に住んでおりますが、手元にご依頼書を頂戴するのは多く締切りのひと月前です。どなたかが断ったのであろうご依頼は締切り三週間前に届き、それらが重なります。締切りを守り抜くために頑張って参りましたが、もっと家族と健康にも時間を使いたく思います。誌面のために時間を掛けて企画を練りたいお気持ちは分かります。時間が質を生むのは確かですが、それは執筆者も同じです。

〈2〉原稿料につきまして

執筆依頼の際に原稿料もご連絡いただけますか。「業界の慣習」と言われれば黙す他ありませんが、時代にそぐわない悪習だと思います。他分野の方に対談や執筆を依頼されるときには、事前に原稿料をお伝えしているのではないでしょうか。同じように扱って下さい。原稿料を先に提示する程度で悪くなる関係性や、磨り減るブンガクの高尚性なら、そのようなものを保つ意味はありましょうか。

なお、原稿料として現金を通常の封筒で送ってこられることがございました。たまたまのことと思われますが、どうかご勘弁下さい。また、源泉徴収義務者として、原稿料からの源泉徴収も漏れなくお願いいたします。

〈3〉雑誌の電子書籍化につきまして

後世における研究が少しでも楽になるように、また、より広い人々が雑誌を手にすることができるように、積極的な電子書籍化をお願いしたく思います。当然費用がかかることだと思いますが、紙の雑誌よりも電子版を高い金額に設定することもできます。人員の関係で今すぐに電子書籍化に取り組むことができなくとも、執筆依頼書に「将来電子書籍として発行することもあり得ます」と一筆記しておくだけで、取れる選択肢は大きく増えるのではないでしょうか。例えば一年に一回、十二冊を合本として一冊の電子書籍にしてもよいはずです。

〈4〉目次の公開と記録につきまして

目次のインターネット上への積極的な記録をお願いいたします。出版社のサイトが刷新される度に、公開されていた目次情報がすっかりなくなってしまうことに、何度か辛い思いをいたしました。後世とまでは行きませんが、こちらもまた、日々の調査・研究のために大切なことです。

〈5〉アンケート企画につきまして

趣向をこらしたアンケート企画に、毎回楽しみつつ参加しておりますが、作歌や結社についての意識にせよ、好きな古典作品にせよ、同じアンケートを数年毎に繰り返し尋ねることで、データとしての蓄積に価値が生じるような企画になりませんでしょうか。そのためには、回答者の年齢や属性などもしっかり確認する必要がありそうです。

〈6〉公募評論(新人)賞につきまして

年間回顧のたびに評論の不作が嘆かれ、その大切さが唱えられておりますが、総合誌が設ける公募評論(新人)賞がひとつしかないことは、率直端的に申し上げて、恥ずかしいことと感じております。無論、賞があれば全てを解決するようなものではございませんが、それは短歌新人賞も同じです。応募者が多くなさそうであることを懸念されておられますか。それは、評論賞を設けない理由ではなく、評論賞を設けてこなかった結果でありましょう。賞金や選考費用を懸念されているなら、数年に一度の開催や、協会・複数誌合同での賞とするのはどうでしょう。広く出資を募るクラウドファンディングという手段もあります。出資者には応募評論の上位何本かを全文で提供することにするだけでも、手をあげる人は多そうです。

〈7〉初学者向けの連載につきまして

作歌を始めたばかりの読者向けに、文法や歌の詠み方などを手ほどきする連載は、充実しているように思います。一方で、評論を深く読み解けるようになるための継続的な記事は、圧倒的に不足していると感じます。評論に関する用語の詳しい解説や、今となっては参照しづらい歌論・短歌作品の再録など、要望は多くあるはずです。歌を詠めるようになることが、歌だけではなく評論も読めるようになることに繋がるのが理想であり、必要でありましょう。

〈8〉短歌総合雑誌であることにつきまして

短歌総合(・・)誌とされるものが五誌も必要でしょうか。雑誌発行・歌集出版をニ軸とする同じ事業形態の会社同士が奪い合うには、パイは小さくなる一方です。読者側の視点では、同じようなパイばかり焼かれても胃に持て余します。発展的な統合を目指すか、各誌が短歌総合誌であることを突き破るような〈トンガリ〉を持つことを望みます。

 

初出:「現代短歌」 2016年11月号
特集:わたしの誌面批評