10月の短歌(テキスト版)

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記憶により曇り
石川美南
10月2日(火)竹橋にて面接。12時半頃永井くんの職場に急襲をかけるも、食事休憩中
飛び魚を容れては吐いて燦々とながれゆくポリ袋の旅路
10月6日(土)今橋さんの晩ご飯は松茸づくし
恋人の家までの坂 鉄板をだし巻き卵ゆるく転がる
10月9日(火)唐突に仕事始まる
怖いでは済まされなくておづおづと秋の支柱に手を伸ばしたり
10月12日(金)職場の全員にカボスが5個づつ配られた
慣れるにはまず習はねば すし詰めの東西線に聞き耳立てて
10月13日(土)最後に缶けりをしたのはいつの日か、といふ話題。実は去年
引き出しの取つ手とれたる真昼間のどこにも隠れられぬゆゑ 鬼
10月16日(火)びつくりするほど眠い
あやふやな記憶の旗をなびかせて夜は版図はんとをひろげゆくなり
10月20日(土)さまよえる歌人の会。『仙波龍英歌集』読む
下腹部に熱を溜めつつ子衛星おうな・おきなを切り離す夢
*月周回衛星「かぐや」、子衛星2機を分離(10月12日)
10月21日(日)二日酔ひ。丸一日これまでの自分を反省
びつしりと棘の生へたる棒を振り嬉しさうなり絵本の鬼は
10月24日(水)祥さんより銀行強盗計画メール。返信保留中
見に行つてみませうか月 お堀から東京駅のある方角へ
10月27日(土)歌会ハシゴ。光森さんに少女マンガ返す
笑ひ続ける自信はあるぞ台風にひつくり返された傘のまま
じーぴーえすにつかまる(仮)
今橋 愛
「しんでるよ」
死んだところをみせるまで
むしろ
「よかったね」って夫は。
しわしわの麻のスカート
じてんしゃにのっているのです
生きてるのかなあ
おみそしるの貝のような日々
だしも出るし?
それはそれでそうなんだろうか
じーぴーえす。から
うつらないものになって
おばさんらしくスキップしたい
いなかのひとが
あそこよりかはとかいだとかゆうのを
ぼんやりぼんやりきいてる
日本中数えきれないひとがいて
そのほとんどに会わないでしぬ?
ほんとうじゃないことを
ほんとうみたいに口にしろってあなたがゆうの?
ゆめで美南ちゃんが手の甲にしーるを貼りつけ
「ドッチボールはしないの」
するつもりないドッチボールへらへらと参加しており ゆめのなかでも
じてんしゃを
こいでも
こいでも
このまちで
めにうつるのは
げんじつばかり
十月
永井 祐
やさしい人やかわいい人と生きていく 家に着いたらニュースが見たい
運動会の日のような朝 3Fのマックで食事を取る女の子
ボルヴィックフルーツキスを駅で買い翌日の昼ごろ飲み終える
たくさんに気は散りながら教会のある坂道をどこまでもゆく
『とてつもない日本』を図書カードで買ってビニール袋とかいりません
本屋さんを雨がさらってその前の道にたばこの箱が落ちてる
明るいなかに立っている男性女性 こっちの電車のがすこしはやい
交差点にお昼の日ざし もらっとけばよかった割引券思い出す
水のりの匂いのようなものがする秋をスーツの人しかいない
今日は寒かったまったく秋でした メールしようとおもってやめる する
さみづに濁る
光森裕樹
蜂蜜にしづむピアスの持ち主のよこすメイルの長き秋雨
みなもより落葉らくえふひとつみなぞこへ落ちなほしゆくさまを見てゐつ
憎むべきひとを想へば今ひらく雨傘のに移るあまおと
秋雨をまなかに見据ゑてのぼるとき螺旋階段がほどく錆の香
鈴蘭のかさにグラスの垂る店にひとの待ちかた思ひだしをり
会はざりし日日は等しくあるものをさみづにさへも濁る苦艾酒アブサン
わらふからそんなに君がわらふからためいきがまた飴玉になる
ふしあはせと不幸はちがふと繰りかへし君に云ひたる人がゐること
雨あがりしのちも触れざる手摺にてやさしきひとは護られてゐつ
一瞥に見送りしのみ会ひてゐたる時は等しくあるものなれば
 
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