9月の短歌(テキスト版)

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ハンチングその他の帽子
石川美南
子へ孫へ受け継がれたり似合はない帽子を選びとる才能は
帽子箱積み重ねたる片隅に羽虫・妬みの虫しのび寄る
営業職の人らほどよくかしこまり帽子交換してをり真昼
車座になつて読むのはハンチングの男が書いた数行の歌
「眼鏡濡れてるよミナさん意地悪なこと言ふまへは顔でわかるよ」
わらわらと遊ぶ前髪 コーヒーをやめた理由ははぐらかされつ
ささやかな小学校へ通ひにき紅白帽の白を好んで
きつね耳たぬきの笑ひ我が顔が意地悪を言ふまへの輝き
もう南へ飛び去りたくてたまらないつばめがシルクハットより出づ
かぶつては見知らぬ人へ手渡して果てもなし夕雲・キャスケット
夏か分からない夏のおわり
今橋 愛
けっこんしきのはがき
欠席にまるつけて
涼しいへやでサイダーをのむ
まっさきに依存の欄に入れられる品種のたぐいか そらをみる午後
けっこんするまえのこいびと
かわるがわるゆめにでてきて
だきしめてくれる
鍵束がいくつもでてきて
どの鍵も あかないのです。

なんの かぎなの
ぶーらんこぶーらんこゆれる
かたかたと
すべてのことはなかったように
あなたってひとりでないてる犬みたい
どうぶつみたい
犬もしにます。
かんじゅせい
つぎつぎとつぎ
ぼたぼたと
ガーゼ素材によくしみこんで
食パンの焼けるにおいが
きょうれつにただようきのする
くらやみにいて
しょくあんとひらがなでかけば
たくあんのようなきがしてくるからふしぎ
夏か分からない夏のおわりに
かさぶたをたべても

なにもかわらなかった。
九月
永井 祐
冷やし中華はけっきょく一度だけ食べて長い髪して夏をすごした
テレビの死んでゆくイノシシに気を取られ汗だくになっている風呂上り
200円でおいしいものを手に入れろ 残暑のゆれるところをすすむ
缶コーヒーのポイントシールを携帯に貼りながら君がしゃべり続ける
彼はいま漢和辞典を引いている メールをもらったので知っている
ボールペン出して金髪のばあさんがぼくの手帳に丸を描くこと
掃除をすっかりしたら気分が晴れている排水口はぼくと通じる
鼻をすすってライターつけるおいしいなタバコってと思って上を向く
となりに座った女性が赤いセルシート使って勉強してる夕暮れ
30分待つハメになる 着メロはバスの発車の音にまぎれた
秋夜あきよに仔犬
光森裕樹
はつなつの運転手さんありがたう やつぱりぼくは此処で降ります
靴箱を探して生きる 幾たびも皐月の母より土足で生まれ
羽化しつつすでに黒かる眼をもてばほそき枝にて落とすひぐらし
手を添へてくれるあなたの目の前で世界をぼくは数へまちがふ
ゑのころを照らす停留所にいつか乗ることのないバスが来てゐる
手探りでくだりつづける階段に擦れちがふための踊り場がある
孵らずのさなぎを裂けば一匙の鱗粉のみに溢れてゐたり
ニュートン式反射望遠鏡に見る此の星にさへ照らされてゐる
アルペヂオ おお、あるぺぢお! ぼくだけがマルクをレンテンマルクに替へて
とめどなく仔犬をかつてしまふだらう 秋夜に仔犬 こいぬ たくさん
 
セクシャル・イーティング
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