8月の短歌(テキスト版)
水心、雲の心
衿のある服を着るさへ厭はしく魚 めいた身なりで外へ
下の句と上の句出会はざるままに渋谷・品川・坂上り下り
交遊はしづかに続き二の腕の鱗ふれあふ夜汽車もありき
水と水交はるやうなかなしみを伝へたがつて暗き軒下
(体勢を立て直すなら今だつた)ぬるい海水耳からこぼす
見た目より柔らかい雲 触れさせてみるかと尋ね答へを待たず
これは海これが海ねと繰りかへしうれしげに揺れゐる舟だつた
天頂に近きところを走る雲(さうは言つても、もう帰らねば)
慌てふためいて去る夏 沿道の三角コーンべこべこ鳴らし
にんまりと途方にくれてゐるばかり波打ち際にころがる雲丹( は
ゆめみるおんな/ゆめみる少女/ゆめみるとしのいったおんな
未婚か、一度結婚したが ともかく今はしていない
日本のどこかに住む ひとりのおんな/少女/としのいったおんな
日本のどこかに住む ひとりのおんな/少女/としのいったおんな
左手に加藤治郎歌集をもって
右手に赤い花たばもって
右手に赤い花たばもって
(ある日の地下にて)
おんな(少女/としのいったおんな)はその日のバイトを終え帰宅途中。ほろ酔い。
足元はスニーカー。職場ではミュール?の類をはくことがきまっているが
ミュール?はロッカーにしまってスニーカーにはきかえてから帰るのが常。
白のコンバース ワンスター。赤い花束は ばら。お客からもらったもの。
(あるいは 花なんかいらん。という甘ったるい声とともに まわってきたもの。)
歌集は
まりあまりあ明日( あめがふるどんなあめでも 窓に額をあてていようよ
のペイジが 四つ橋線(青)から もうずっとひらかれている。
普段身につけない赤色をみていると
自分がちょっとだけ価値のある人間になったような気のする。
ホームに電車が入ってきます。
おんな(少女/としのいったおんな)はその日のバイトを終え帰宅途中。ほろ酔い。
足元はスニーカー。職場ではミュール?の類をはくことがきまっているが
ミュール?はロッカーにしまってスニーカーにはきかえてから帰るのが常。
白のコンバース ワンスター。赤い花束は ばら。お客からもらったもの。
(あるいは 花なんかいらん。という甘ったるい声とともに まわってきたもの。)
歌集は
まりあまりあ
のペイジが 四つ橋線(青)から もうずっとひらかれている。
普段身につけない赤色をみていると
自分がちょっとだけ価値のある人間になったような気のする。
ホームに電車が入ってきます。
切実にうれしいものはあのひとに買ってもらった電化製品
おんな(少女/としのいったおんな)はテレビを買ってもらう。
(こいびとから/おきゃくから/こいびとだとおもっているひとから/おやから/こどもから)
おかげでさびしさを実感することができる。
困る。つかのま助かる。
(こいびとから/おきゃくから/こいびとだとおもっているひとから/おやから/こどもから)
おかげでさびしさを実感することができる。
困る。つかのま助かる。
(ほんとうのほんとうのところ)
はんざいしゃになりそうになったらとめてね
つぶやくよるの駐輪場で
はんざいしゃになりそうになったらとめてね
つぶやくよるの駐輪場で
そのことばもほんとうには理解されることはない。
ほんとうに言っているのに そのひとは意味がりかいできない。
金輪際 このようなことばを吐くべきではない、とおんな(少女/としのいったおんな)は「理解」する。
ほんとうに言っているのに そのひとは意味がりかいできない。
金輪際 このようなことばを吐くべきではない、とおんな(少女/としのいったおんな)は「理解」する。
ふだんぎになっていることの。さびしい。きょねんよそいきだったぶらうす
「色がはげてもて
え? そら つかってるよ。 ………せやけど もう ぜんぜんちがうねん。」
え? そら つかってるよ。 ………せやけど もう ぜんぜんちがうねん。」
ひとりへやで
ひさしぶりすあしのばしたら
こんなあしして生きているのか
ひさしぶりすあしのばしたら
こんなあしして生きているのか
(ひざし とともに)
おんな(少女/としのいったおんな)のあしはむくんで白っぽく、膝頭は ぼこぼこしている。
このあいだ見た膝頭を思いだす。
その膝頭はこんなふうにぼこぼこしてなかった。
というより けむくじゃらで ほんとうのことは よくわからなかった。
おんな(少女/としのいったおんな)のあしはむくんで白っぽく、膝頭は ぼこぼこしている。
このあいだ見た膝頭を思いだす。
その膝頭はこんなふうにぼこぼこしてなかった。
というより けむくじゃらで ほんとうのことは よくわからなかった。
カウンター越し「デートしよ」は
こんばんは げんきですかのかわりなんだな
こんばんは げんきですかのかわりなんだな
(ことわられる)
一度思い切ってそのひとに 映画でも。と言ってみたのです。
なぜ そのひとだったのか?
そのひとは 昔すきだったひとににていたし安全なかんじがしたから。
そうしたら そのひとは
「○○さんと行けば?あのひとに紹介されてあなた(きみ/あんた)とは知り合ったわけだし……。」
としどろもどろに答えた。
一度思い切ってそのひとに 映画でも。と言ってみたのです。
なぜ そのひとだったのか?
そのひとは 昔すきだったひとににていたし安全なかんじがしたから。
そうしたら そのひとは
「○○さんと行けば?あのひとに紹介されてあなた(きみ/あんた)とは知り合ったわけだし……。」
としどろもどろに答えた。
ほんとうにさびしいみみのかたちして たちまちさわらないでおれない
においをかぐ。みみ。きみのみみ きょうはどろのにおい よくはたらきましたね。
─ 過去 こいびとの父親(あるいはこども/父親/こいびと)
に言われたことば。あの日ざし、幸福感等々 ─
に言われたことば。あの日ざし、幸福感等々 ─
まいちゃんは ねむりひめだ といわれてたあの子供じみたおもいでなども
もうここに にどとかえってこないような おふとんのたたみかただとおもう
おんな(少女/としのいったおんな)はうちをあける。
すぐ、なのか ずっと、なのかはわからない。
もちろんひとりで。
すぐ、なのか ずっと、なのかはわからない。
もちろんひとりで。
八月
わたしはやはり富士山にのぼらない方がいい気がするし花火であそぶ
缶コーヒーと文庫をもって立っている足元に吹いてくる夏の風
台風のはずだが音は聞こえずに机の上にツナ巻きがある
おしっこのしみみたいな影をひきながら道のなかばに座りこむ猫
職場での会話の中に江戸川のほとりの五十人のバーベキュー
三十代くらいのやさしそうな男性がぼくの守護霊とおしえてもらう
君と特にしゃべらず歩くそのあたりの草をむしってわたしたくなる
メリーゴーランドのひかりブレていく あれに乗ろうと言い立ち上がる
内側と外側を行ったり来たりしながら帰る駅前の道を家まで
サクサクとポッキーを食べながらみる映画の中の信号無視
風のうはずみ
うるほへる瞳のごとき珈琲で事足る日日をただひとりゐる
あのひとと呼ばるる人を言ひあてず受ける相談事は水銀
ひたむきさが常にまとへる可笑しさのまざまざたるにわれは黙せり
屋上にきて飲む風のうはずみがくるしきまでに草かをりする
ひだりうでに鎖をなして連なれる歯形を熱き陽にさらしをり
風力で旋回( れるごときクレーンより空に垂線は引かれはじめつ
静電気おそれてわれが開かざる万の扉のノブのぎんいろ
屋上から屋上にうつる鳩のなかおくれつづける一羽のありき
やはらかないちにちでしたと綴られしメイルをつひにつひに捨てたり
或る友が世界に選ばれ或る友が世界を選びなほしたり、今日