砂子屋書房の一首鑑賞コーナー「日々のクオリア」7月10日から8月14日までの掲載分です。夏ということで、ちょっぴり怖くて背筋が冷える歌を選んでみました。
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かすかに怖い
- (1) 橋なかば傘めぐらせば川下に同じ橋あり人と馬行く 岡本かの子
- (2) 「蠅はみんな同じ夢を見る」といふ静けき真昼 ひとを待ちをり 魚村晋太郎
- (3) モナリザは笑みてをらずと夢に来し誰かは言へり雨月ふかき夜 大塚寅彦
- (4) 七月十七日かなかな鳴けり幾度か短く鳴けり夜のベランダに 花山多佳子
- (5) 幼年時代の記憶をたどれば野の果てで幾度も同じ葬列に会う 永井陽子
- (6) 炎昼の往還に人絶えぬればあらはるる平沼銃砲火薬店 柚木圭也
- (7) 陽炎に裏表ある確信を持ちてしずかに板の間に伏す 棚木恒寿
- (8) 太陽の沈まぬ国のひまはりは首落つるまで陽を追ふといふ 朋千絵
- (9) 夏なのに咲かない向日葵 泣いていた記憶ばかりが鮮明、ずっと 岩崎恵
- (10) きっと血のように栞を垂らしてるあなたに貸したままのあの本 兵庫ユカ
- (11) 急行を待つ行列のうしろでは「オランウータン食べられますか」 大滝和子
- (12) 吉野家の向かいの客が食べ終わりほぼ同じ客がその席に着く 望月裕二郎
- (13) わたあめ屋歩めばさらにわたあめ屋売る人の顔みな同じなる 吉川宏志
- (14) 僕たちは生きる、わらう、たべる、ねむる、へんにあかるい共同墓地で 岸原さや
- (15) こわいのよ われに似る子が突然に空の奥処を指さすことも 江戸雪
- (16) ゆつたりと生きゆく人とゆつたりと死にゆく人が花の真下を 仙波龍英