砂子屋書房の一首鑑賞コーナー「日々のクオリア」3月6日から5月1日までの掲載分です。それぞれ、歌の前の番号をクリックすると該当するページが表示されます。
憎むということ
- (1) わが髭の/下向く癖がいきどほろし/このごろ憎き男に似たれば 石川啄木
- (2) 愛告げてのちの夕映え 理科室に聞きくれし友を憎みはじめぬ 佐伯裕子
- (3) しどけなく電車に眠る少年の微かにひらくくちびる憎し 大井学
- (4) 聡きことわづかに憎し主もたぬ犬さへひとを嗅ぎわけて寄る 今野寿美
- (5) あさかげの今井美樹的東京を数度おとなひ数たび憎みき 大辻隆弘
- (6) すがれゆくパルテノン多摩若すぎて憎まれるうちに教授になりたい 中沢直人
- (7) 生涯憎み続けるといふ一言をむしろなぐさめとして覚めをり 矢部雅之
- (8) 食ひ終へて食ひ飽かぬとぞわが母のわれを憎しむ目に力あり 柳宣宏
- (9) ひと憎むことほど易きことはなく松の針ふる下を歩めり 渡辺松男
人から見た自分
- (1) 恋愛にはるかに遠き関係として呼び出されたること多し 生沼義朗
- (2) 「自由を謳歌」ってひとりぐらしのトイレにも鍵かけているわたくしが、か イソカツミ
- (3) 新姓を貼り付けられて生き延びるこのベランダは終着点なり 天道なお
- (4) 変人と思われながら生きてゆく自転車ギヤは一番軽く 雪舟えま
- (5) 「駄目なのよ経済力のない人と言われて財布を見ているようじゃ」 松村正直
- (6) 来ないでよ母さんだけが若くない お前に言われる日がきっと来る 川本千栄
- (7) 俺は詩人だバカヤローと怒鳴つて社を出でて行くことを夢想す 田村元
- (8) 君でない男に言われ立ち止まる「あなたが淋しい人だから」など 里見佳保
- (9) ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか 木下龍也
- (10) 野口あや子。あだ名「極道」ハンカチを口に咥えて手を洗いたり 野口あや子
- (11) フジワラちゃんと呼ばれることもうべなえばああなまぬるき業界の風 藤原龍一郎
- (12) ひらがなで名を呼ばれたりはつなつの朝のひかりのテーブル越しに 錦見映理子
- (13) 茸たちの月見の宴に招かれぬほのかに毒を持つものとして 石川美南
- (14) パチンコをしつつ嬉しもニイチヤンと隣の台の男に呼ばれ 安田純生
- (15) 民族が違ふと言はれ黙したり沖縄びとにまじりて座せば 渡英子
- (16) 小道さへ名前をもてるこの国で昨日も今日も我は呼ばれず 小川真理子